精神状態を可視化するーLifegraph

CATEGORY: GENIUS

TAG:

イスラエルのLifegraph社は精神疾患患者の精神状態を通知してくれるアプリを開発した。アプリの目的は、症状の再燃を防ぐことだ。開発したのは、テルアビブ大学のNevo博士が率いる研究者グループだ。

自殺者の大半が精神疾患を抱えている

日本は、自殺の多い国だ。警察庁のまとめでは、2015年の自殺者数はおよそ2万4千人だった。毎年3万人を超えていた1998年から2010年に比べれば減少している。しかし、WHOによれば、2015年の年齢調整自殺率で 日本は世界で17番目に高い国となっており、依然として日本の自殺率が先進国の中で高いことに変わりはない。また、厚生労働省によると、2015年、国内での死因別の順位で、自殺は8位となっている。忘れてはならないのは、自殺者の大半が精神疾患を患っているという事実だ。WHOが発表した自殺に関する報告書「自殺を予防する:世界の優先課題」の中で、高所得国では、自殺で亡くなった人のうち精神障害のある人は90%に及ぶと報告されている。中でも気分障害と物質関連障害が占める割合が大きい。代表的なものとして、気分障害にはうつ病があげられる。また、物質関連障害には、アルコール依存症が含まれる。

精神疾患では、自殺率が高まる時期というのが知られている。例えば、うつ病なら初期や回復期だったり、双極性障害では、「躁」から「うつ」に転じたような時期だったりする。だが、もしこの自殺率が高まる時期を事前に知る事が出来たら、どうだろうか? 適切な治療を受けることが可能になり、自殺の予防につながるのではないか?

精神疾患で問題なのは、自殺だけではない

2008年の日本において、うつ病性障害だけを見ても、医療費は2,090億3,600万円かかった。2010年慶応義塾がまとめた「精神疾患の社会的コストの推計」事業実績報告書では、この他に間接的にかかってくる費用も考慮に入れて、うつ病性障害の疾病費用は3兆900億5,000万円と推計している。また、アメリカでは、患者は入退院を繰り返す傾向があるという。日本では、医療上の必要性は低いにもかかわらず長期入院となる社会的入院という問題も抱えているものの、やはり入退院を繰り返す患者も多いようだ。

このように、精神疾患は患者やその家族にとり、経済的にも心身的にも負担となり、また社会に対する影響も大きい。では、例えば、入院が必要になるほど悪化する以前に、精神状態を把握し、適切な治療を受けられるとしたら、どうだろうか?患者らの負担を軽減することが出来るのではないか?

精神病患者の行動を記録し精神状態を把握

Lifegraph_1

Lifegraph社のKeren Sela氏がIsrael21cに語ったことによれば、精神疾患では、患者を安定させる投薬治療ができるが、これまでは患者の精神状態を客観的に判断する手段に欠けていたのだそうだ。Nevo博士によれば、精神疾患の診断は活動パターンに基づいているという。だから、同社では精神疾患の診断のために、血糖値や心拍数を計るがごとく、行動を可視化し客観的に判断できるようにした。アプリを用いると、入院が必要になる程に病状が悪化する2〜4週間前に察知することが可能だという。

スマホを利用して、患者の行動を記録し、患者の精神状態を把握する。
分かりやすい事例として、開発者のNevo博士は、双極性障害を上げている。双極性障害では、躁状態(躁病エピソード)から始まるという。躁状態になると、気分が高揚したり、多弁になったりする為、通常一日あたりの通話回数が4、5回の患者が、突然一日に何件もかけるようになる。こういった通話記録を利用し、患者の状態をモニターする。他にも、通話時間や、発した言葉の数、声の特徴、出掛けた場所の数や距離、睡眠パターンなどの記録を蓄積する。ここで大事なのは、患者のプライバシーだ。会話の内容や通話相手、特定の場所はデータとして集計されない。またデータにアクセスできるのは、患者本人と担当の医師に限られる。持ち歩きたくないときは、患者の自由だ。

なお、博士らが、デバイスとしてスマホを選んだ理由は、現在普及が進み、誰もが使っている上に、活動の記録がとりやすいからだそうだ。

同社では既にヘルシンキ宣言に準拠した臨床試験をイスラエルにある3か所の精神衛生センターで行っており、有益な結果になったという。臨床試験が行われたセンターに勤める精神科医Dr.Dror Dolfinは、患者の小さな行動の変化を察知できたら、次の診察予約を待たずに、早めに受診するよう患者に促すことができると語る。診察の頻度を上げたり、処方を変えるなどといった対策も取りやすくなる。また、アプリの使用を提案された患者の9割以上が、アプリをインストールし、継続して利用しているという。

同社はアメリカへの事業拡大を視野に入れている。同社のシステムが効果的だと実証され、精神科医に幅広く取り入れられるまでの道のりはまだ遠いものの、精神科医も米国の政治家も、同社のアプリのようなものは、精神科医療の改善に必要だということで一致しているとNevo博士は言う。Nevo博士もSela氏も同社の今後については楽観的だ。

Lifegraph社のアルゴリズムとインフラ開発を担当したJonathan Marton氏はJewish Business Newsの取材に対して次のように語っている。

「製品を完成させ、将来的には会社として存続できるよう見込んでいるが、こういったテクノロジーによる解決策の場合、有効性を証明するためには、しっかりとした裏付け調査が必要になるので、我々は時間をかける必要があります。このことが、大学の研究者グループである我々が有利な理由なのです。」

確かに同氏の言うように、有効性についてしっかりとした裏付けがされるまでは、時間がかかるのかもしれない。しかし、時間をかけてでも同社のサービスの有効性が確立し普及するようになれば、再入院する患者が減り、世界各国の自殺率も下がるという日が訪れるのではないだろうか。

会社概要

会社名 Lifegraph
CEO Keren Sela
設立年 2013年
拠点 テルアビブ(イスラエル)
社員数 1-10人規模
事業内容 精神疾患患者の病状を把握するアプリの開発・運用
会社URL http://www.lifegraph.net

メンバー紹介

Keren Sela

Keren Sela
共同創立者 CEO
2010年から テルアビブ大学で生体医工学を専攻、2012年理学士号を取得。
2010年から教育助手としてBiology of the cellとBiophysics of the cellを担当する。2011年からは数学を教えていた。

Asaf Liberman

Asaf Liberman
共同創立者  CTO 
2010年、テルアビブ大学生体医工学で理学士号、2012年 理学修士号を取得する。
2013年から同大学の博士課程に在籍中。

Dr. Uri Nevo

Dr. Uri Nevo
創立者 Chief Scientific Officer 主任技師
2004年 テルアビブ大学で物理学で博士号を取得。
2009年から現在に至るまで、テルアビブ大学において医用生体工学の上級講師を務めている。

TAG

WRITER

SAKIGAKE編集部

SAKIGAKE編集部

海外のスタートアップ、テクノロジーに関する最新情報を発信していきます。 海外の起業家たちが、何の課題に目を向け、どんなことを仕掛けようとしているのか。 最新技術だけでなく、未来を創ってきた人や、これから未来を創ろうとしている人の生活・人生もご紹介します。
MEDIA |  |