Ron Shani氏 クラウド型農業コンサルタントソフトで小規模生産農家をバックアップ

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近年、ITを駆使した農業が広まりつつあり、“スマート・アグリカルチャ”として知られてきています。今回お話を伺ったのはイスラエルから世界へ、農業技術を発信するAKOLogicを運営するAKOL社を率いるRon Shani氏です。元々コンピューター関連企業に勤め、副社長にまでなったRon氏がなぜ農業でのコンサルタントビジネスに熱い視線を注ぐのか – その背景と情熱に迫りました。

プロフィール

Ron Shani
AKOL CEO

テルアビブの大学で、工学・経営・マーケティングを学ぶ。卒業後はコンピューター関連の会社で勤務、その後独立。

コンピューティングから農業へ ― IT業界で長年の経験を経て独立

—まずご自身の経歴をご紹介いただけますか?

テルアビブの経営大学で、工学・経営・マーケティングを学びました。その後、イスラエルのコンピューター会社に入社しました。当時イスラエルは、90年代のハイテクブームの真っただ中で、多くの同僚はスタートアップ設立を目指して独立していきました。そんな中自分は同社に残っていたのです。それがその後、短期間で最年少副社長に就任するきっかけとなったと思います。

それから17年ソフトウェア業界で経営に携わり、2007年、自身のビジネスを始めようと決めました。初めて立ち上げたのは小型水質浄化システム事業です。

そして2009年に農業ソフトウェアビジネスAKOL社を買収したのです。AKOL社は1978年設立されました。買収当時経営危機に陥っていましたが、その同じ年にプラスに収益転換できたのです。それをきっかけに、同社のグローバル展開への切り替えを目指し始めました。自分自身、それまでおこなってきた事業投資の中で一番チャレンジングな変化だったと思います。

AKOL社に関わっていくうち、農業技術に関する独自のノウハウを、同社が持っていることに気づきました。しかしながらそれら資料などが旧式システムで保管されていたのです。私はその、同社の知識をグローバルに活用できるプラットフォームはないかと考え始めました。

自然と思いついたのは、新しいプラットフォーム、AZUREを立ち上げたばかりで、コンテンツを探していたMicrosoft社です。そこから何年もかけてAKOLogicという独自システムをつくりあげていきました。数百万ドルの投資のうえで、今現在当社が運用するシステムは、創立以来35年かけて培われていった同社の経験と知識、ノウハウそのものです。

私自身、世界のトップ100に入るソフトウェア企業でビッグ・データの運用に携わってきた者として、農業の世界は時代遅れの一面を持っていると正直思います。農業の革新はまさに始まったばかりであり、自分自身の知識と経験を活用していくことで農業全体を発展させていくことが、ライフワークであり真のミッションと考えています。

—AKOL社の事業内容や取り組みを教えてください。

AKOLogicというソフトウェアの開発と運営を行っています。農業における管理ツールを、世界で初めてクラウド化しました。食の安全と、生産の確保をサポートし、トレーサビリティ機能を併せ持つソフトウェアです。農業分野を専門としたエキスパートが監修、管理しており、このソフトウェア開発に関わるスタッフは皆、大学や研究所で長年に渡り経験を積んだ者ばかりです。

プラットフォームのMicrosoft Azureは人工知能エンジンでオペレーションされており、リアルタイムとオフラインの両方で運用できる点、画像のアルゴリズム分析ができる点で、当社の提供するサービスの技術面を支えてくれています。特に画像の分析機能は土壌の窒素と水分含有量を割り出すことにおおいに役立ってくれていると思います。

このソフトウェアは、農場運営に関わる全ての情報管理を行い、その機能は作物の収穫予測、生長状態の記録、天候予測、病害予測と予防出荷など多岐にわたります。ベースとなるデータは、収穫量、灌漑状況、土壌の肥沃状態など、過去の研究や記録から参照され、統計と映像分析の手法を用いながら最適な情報提供でユーザーをサポートします。また、家族運営の小規模生産農家から企業が運営する大規模生産農場まで、農場の規模を問わずサポートすることが可能です。


AKOLogicオペレーション画面(資料提供:Ron Shani氏)

ユーザーはロケーションを問わず、世界中どこからでもスマートフォンひとつでサービスを利用でき、画像などのデータをユーザーから当社に送ることももちろんできます。当社のサーバーはユーザーから送られてきた画像を分析し、土壌の肥沃状態を把握し、必要な水分量を割り出します。割り出した内容はユーザーに返信されます。これはアルゴリズム分析を用いて、集積データから、ベストな提案を示すことができるのです。この一連の開発に当たって、実際に中国の、伝統的な栽培方法を用いるレタス農家で運用し、最終的な売上額はほぼ倍に伸びました。作物の成長具合をモニターし、出荷における価格予測のサポートもします。生産現場からスーパーマーケットまで、農作物の流通における全てのプロセスに網羅して追跡することを可能にしました。


AKOLogicクラウドサービス画面(資料提供:Ron Shani氏)

AKOLogicが未来を見据える農業の未来 ― 食糧問題にどう立ち向かうか

—AKOLogicを開発された背景を教えて頂けますか?

そうですね、まず今後起こりうる食糧問題が、開発に至った大きなきっかけのひとつとなりました。

世界全体で考えて、将来的に食糧は必ず枯渇すると言われています。 また、経済発展やライフスタイル、生活レベルの向上は相反して食糧不足の原因ともなります。そして食糧が不足する一番の原因は、世界の人口増加です。

WHOによる試算では、2030年までに80億人、2050年までには90億人を突破するだろうと予想されています。現代と比較すると33%の増加となり、それに伴う食糧の価格の高騰も、一般市民にとっては大きな問題です。増え続ける人口に応じた食糧供給を保つには、現時点よりも70%の増産が必要と考えています。

もう一つ、考えておかなければならないポイントは、食糧は人間が食べるだけでなく、家畜などの動物を飼育するうえでも必要だということです。特に穀物は牛、豚、鶏を育てるのに重要です。例えば、赤身肉1キログラムを生産するためには、肉牛1頭あたり8キログラムの穀物が必要です。豚肉であれば4キログラム、鶏ならだいたい2キログラムの穀物を消費します。食用魚であっても養殖する為には0.75キログラムの穀物を必要とします。

これらの事情から、食糧生産に関わる組織や各国政府は、地球上に生きるうえで必須とされる栄養素を賄うために、どれだけ農業ビジネスに投資するかがこれからの未来を握るカギとなっていると思います。


(写真提供:Ron Shani氏)

中国では食糧不足は既に著しく、当社のシステムを海外展開させる大きな足掛かりとなりました。2016年11月に北京大学で“スマート・アグリカルチャ”をテーマとした国際会議が開かれたのですが、特別招待企業として参加する機会をいただきました。この会議では、学術関係者、政府、研究機関が参加し、食糧危機にいかに対峙するかが議論されたのですが、当社は取り組んでいる事業内容や将来に向けたビジョンを発表することができたと思います。

—今後AKOL社が狙う、業界での役割や展望を教えてください

世界中の農家や栽培家の規模はおよそ84%が小規模企業や家族運営です。例えばアジア圏では農地の85%が10ヘクタール以下の規模で生産されており、大規模運営‣生産が盛んなアメリカ、オーストラリア、カナダでさえ、全体の半数以上は小規模生産農家です。また、発展途上国にフォーカスした場合、じつに10億人以上の人々が農業を収入源とし、雇用の7割を占めGDPの2.5%を生産する計算になります。小さな規模で生産する農家にとって、いかに効率よく生産供給していけるかが今後の重要なカギといえるでしょう。

今後のビジョンとして、プラットフォームを通じて、小規模ユーザー向けのきめ細やかなサポート体制を強化していきたいと考えています。

サービスの内容を拡充させるため、

  • Microsoft Azure上でのクラウドプラットフォームでリアルタイムおよびオフラインでのサービスを提供
  • 世界に先駆けたAIを用いたシステムオペレーション - 複数の情報元からリアルタイムなデータ集積と分析を構築
  • 農業、栽培のスペシャリストが対応するサポートセンターの開設
  • 栽培プロセス・成長段階を分析し最適な作業工程を提案・決定できるビルトインツールの開発

の4つのポイントを考えています。そしてユーザーから集まった膨大なデータを分析し、研究開発に応用することを目指しています。データを基に理論化することで、より緻密でそれぞれのユーザーが必要とする情報を提供できるように進めています。

他業界と比較して、農業ビジネスにおけるテクノロジーは技術的に遅れを取っていると思います。全ての農家が農業の専門知識に長けているわけではありません。多くの人々にとって数百年以上にわたって受け継がれてきた伝統的な手法で栽培・運営することが未だ主流になっていると思います。しかしながら、将来の食糧不足に備えるためには、生産効率とスキルの向上が必須です。

当社は世界で初めて農業専門のクラウドサービスの提供を始めた企業であり、他に類を見ない優れた経営マネジメントソフトウェアを開発していると自負しています。また、ソフトウェアの多言語化を進めることによって、多くのユーザーが同じプラットフォームを利用し、互いにコミュニケーションを取ることも可能にしました。

データを研究開発に活かしていくことは特に重要です。イスラエルは農業において高い栽培技術を持っている国です。その培った技術を基に、適切な肥料の使用量や病害予防のスキルなど、農業全体の中で、より先進的な技術の共通認識化を図りたいと考えています。

おわりに

小規模農家へのサポートにフォーカスすることによって、業界全体の生産効率アップを図るRon Shani氏。今回Ron氏とのお話を通じて、私たちの生活に実際に起こりうる食糧問題などを分かり易く伺うことができ、毎日の食卓と農業との強い繋がりを感じる事が出来たと思います。彼の持つビジョンは家族経営農家にとって力強い味方となり、将来世界の人々の食生活を支える大きな柱となってくれることでしょう。

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SAKIGAKE編集部

SAKIGAKE編集部

海外のスタートアップ、テクノロジーに関する最新情報を発信していきます。 海外の起業家たちが、何の課題に目を向け、どんなことを仕掛けようとしているのか。 最新技術だけでなく、未来を創ってきた人や、これから未来を創ろうとしている人の生活・人生もご紹介します。
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