網膜変性で視力を失った人に視力回復による自由と自立の手助けをする-Nano Retina

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2009年に設立されたイスラエル Herzliyaに拠点を置くNano Retina社は、難病である網膜変性疾患により視力を失った患者向けに、視力回復を補助する装置を開発している。疾患のある網膜の機能を高機能の人工網膜に代替するという原理であるが、その装置というのが画期的で、SF小説や映画に出てきそうなものが現実化されたようである。

まだ設立間もない若い会社ではあるが、世界の実績ある研究機関やテクノロジー企業が出資しており、創立メンバーはエンジニア、物理学者、眼科医等の関連分野での豊富な実績を持つ専門家を集めている。

増え続ける網膜疾患

網膜変性疾患には様々なものが存在するが、その中には視力喪失に至るものも存在する。その結果、読書、テレビの視聴、運転など日常生活に大きな影響を与えることもあるのだ。

すべての網膜変性疾患に共通しているのは、網膜の視細胞の損傷であり、機能不全または完全不能に陥る。光受容細胞は網膜の光感知細胞であり、目の裏側にある繊細な神経線維層である。通常、人の目の網膜の光受容細胞は、カメラが画像を捉えるのと同様に、光を感知して網膜および視神経を介して脳に情報が送られ、画像を生成する電気刺激の連続反応を開始する。

退行性疾患により視細胞がうまく機能しなくなると、受け取った画像がぼやけたり、歪んだり、または完全に見えなくなったりする。これがよくある視力の進行性疾患である。最も一般的な網膜変性疾患は、加齢に関連する黄斑変性症(AMD)と色素性網膜色素変性症(RP)である。

加齢によって発症するAMDは、年を取れば誰にでも起こりうる疾患である。高齢化社会に伴い、網膜変性疾患患者は増加し続けており、治療コストも急騰している。深刻な難病であるため、遺伝子治療や網膜幹細胞移植などの新しい治療法が、世界中で研究されている。しかし現在のところ、進行した症状を含むあらゆる症状の網膜変性疾患に対応できる治療法は人工網膜しかない。

Nano Renita社が提供する治療法

Nano Retina社は、疾患のある網膜に代わる高機能の人工網膜により、視力を失った人の生活の質を向上させる装置の開発に尽力している。

損傷した光受容細胞をバイパスして、機能している網膜層を通って視神経に電気刺激を送る人工網膜の製造に力を入れている。この装置は深刻な視力喪失に苦しむ、AMPとRP両方の多くの患者に使用が可能であると考えられている。
Nano Retina社が開発した装置「NR600」インプラントは、埋め込み型マイクロチップと眼鏡で1セットとなっている。Nano Retina社の登録商標である3DNi™が利用されており、損傷した光受容器細胞の機能に代わって、残りの健全な網膜細胞を活性化するために必要な電気刺激を生成する。

マイクロチップの埋め込みイメージ(出典:Nano Retia公式サイト

マイクロチップは鉛筆の先ほどの大きさである。ここに網膜機能再生に必要な要素がすべて詰まっているため、このマイクロチップを眼に埋め込むだけで済む。

ワイヤレス充電式眼鏡(出典:Nano Retia公式サイト

眼鏡はマイクロチップと通信し、患者は眼鏡についているボタンを押すことにより光の明るさの設定を微調整することが可能である。

冒頭でも書いたが、かつて小説や映画に描かれたような技術が現実のものになりつつあるようである。 体調やTPOに合わせて、見え方の調整ができるのも大きな魅力である。現時点では、メガネは機能的で白色であるが、例えば将来この装置が廉価で普及してメガネがデザイン性をもち、好みに応じてメガネの種類が選べるようになれば、疾患を持つ患者が、より前向きな気持ちで生活できるようになるかも知れない。

「NR600」のメリット

この画期的な装置「NR600」は、他の人工網膜の治療法とは異なり、登録商標である独自の「3DNi™」とマイクロチップの設計により、以下のメリットが挙げられる。

  • 損傷した光受容細胞を、臨床的に根本から代替することができる。
  • より低くかつ最適なレベルのエネルギーが、刺激を受ける神経領域に送られるので、安全性と特異性が高まる。
  • より多くの活性電極が互いに密接して配置されているので、より解像度の高い画像を得ることができる。
  • 1枚のマイクロチップを埋め込むだけなので、標準的な処置は局所麻酔だけの通院手術だけで可能となり、複雑な手術を必要としない。手術時間は1時間程度でリスクプロファイルも低い。
  • マイクロチップの内部で画像が処理されるため、通常の人の視覚経路を使用するので自然に近い。また、画像は目の動きによって捉えて読み取られるので、頭を大きく動かして外部のカメラで画像を読み取るなどの動作を必要としない。

目は人間にとって重要な器官のひとつである。誰でも発症する可能性のある難病に対しての対策法の開発は嬉しいニュースである。患者の身体への負担が少ないこの治療法が普及することで、高齢化社会に伴い増加している難病を解決する大きな力となることを期待したい。

会社概要

会社名 Nano Retina
CEO Yaakov Milstain
設立年 2009年
拠点 イスラエル
社員数 約20人
事業内容 人口網膜機能を持つ小型埋め込み式装置の開発
主な商品 NR600
会社URL http://www.nano-retina.com

メンバー紹介

Efi Cohen-Arazi-
レインボーメディカル創設者兼最高経営責任者(CEO)・Nano Retina社取締役会長
エルサレムのヘブライ大学で農業と微生物学の修士・博士号を取得。
医療およびバイオテクノロジー産業における開発と経営管理の両面で、20年以上の経験を有している。米国、スイス、米国のテクノロジー企業で上級職を歴任した。

Yaakov Milstain
最高経営責任者 (CEO)
35年以上にわたり、Cadence社、Intel社、National Semiconductors社などのグローバル企業で多分野にわたるハイテク製品の開発に携わってきた。最近まではSemi-Conductor Devices(SCD)社の赤外線検出器とカメラの電子開発の責任者を務めていた。テクニオン・イスラエル工科大学で電気工学を専攻。 スタンフォード大学院ビジネススクールを卒業した。

Ran Mendelewicz
副社長 研究開発部門
テクニオン・イスラエル工科大学で機械工学を専攻。
主に医療機器分野における多分野の研究開発プロジェクトの管理に15年以上の経験を有している。Nano Retinaの創設者であるYossi Gross氏が設立したGI Viewの機械開発チームを統括した経験がある。

Prof. Yael Hanein
副社長 科学部門
テルアビブ大学の電気工学教授。
プリンストン大学ワイスマン科学研究所(物理学博士)、ワシントン大学で研究を行った。主な研究分野はニューロエンジニアリングであり、ウェアラブル電子技術とバイオニックビジョンの開発に力を入れている。2009年の創立以来、Nano Retina 社に在籍し、技術部門の研修・統括責任者である。

David Rigler
副社長 臨床研究および規制関連業部
エルサレムのヘブライ大学で生物学を専攻、テクニオン・イスラエル工科大学で医用生体工学の修士号を取得。
医療機器のベンチャー企業における臨床研究、規制業務、品質保証チームを18年以上率先し、さらにメタボリックシンドローム、心臓医学、視力回復の分野で確固たる地位を築き、移植可能なデバイスの規制と臨床の道筋を開拓した。 国際規格に準拠した品質システムや当局の承認を支援する臨床試験、革新的な製品を開発するための初期臨床研究を行っている。

Tuvia Liran
VLSI部門 取締役
イスラエルのテクニオン・イスラエル工科大学で電気工学を専攻、修士号を取得。
VLSI(大規模集積回路)業界において、30年以上の管理職および技術職の経験がある。アナログおよびデジタルVLSI設計、プロセス、テスト、認定、不良解析およびパッケージングに関する豊富な経験を持つ。インテル社、フィリップス社、サンディスク社などの多国籍企業で勤務していた。マイクロエレクトロニクスの定義と埋め込み型デバイスの実装を担当している。イスラエル空軍のパイロットとしても活躍した経験も持つ。

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SAKIGAKE編集部

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