車いすからの「立ち姿勢」を支援する電動モビリティー登場-Matia Robotics

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立ち乗り型の電動モビリティーといえばセグウェイが有名だが、モビリティーロボット技術の研究者らが立ち上げたMatia Robotics社は、車いす生活者の屋内移動を支援する新型モビリティー「Tek RMD」を開発した。両下肢の運動麻痺を引き起こす対麻痺(ついまひ)などによる歩行障害で車いす生活を送る人が望む「立ち姿勢」での快適な移動を支援する。

「前乗り」から「後ろ乗り」へ

「立った姿勢」での動作は日常生活の多くの場面を占めるが、車いす生活を送る人にとっては困難な動作だ。車いすから移動してソファに座る、トイレの便座に座る、そしてそこからまた車いすに戻るといった一連の動作を行うには、車いすから立ち上がる際に腕で体を支える必要があり、ならず介助者なしでは危険をともなう。この「立ち上がりからの移動」の問題を解決しようとするのが、Matia Robotics社が開発した「Tek RMD(Tek Robotic Mobilization Device)」だ。

そもそも、一般的な後輪駆動型の車いすは機体の構造上、車いすへの乗車は「前乗り」が前提となる。車いすには背もたれがある以上「後ろから乗り込む」ことが不可能なのは考えてみれば当たり前のことだが、そこに死角があった。

出典:Matia Robotics社公式サイト

Tek RMDはセグウェイに似た立ち乗り型の電動モビリティーだ。上の写真を見るとわかる通り、機体の背面から「後ろ乗り」する構造となっている。背中と腰を支えるサポーターをTek RMDの機体にひっかける形で固定し、その姿勢からハンドル部を引き上げることで車いすに座った姿勢からTek RMDへ乗り換えて、スムーズに「立ち姿勢」に移行することができるというわけだ。

車いすに座った姿勢からTek RMDのハンドル部を掴み、軽く引くだけの動作のみで安全性は高い。車いすに座った姿勢から立った姿勢への転換が素早く容易になる。また、Tek RMDのハンドル部にはジョイスティック型のコントローラーが搭載され、動きたい場所を自らコントロールし、屋内を自由に移動できるようになる。


出所:「Tek RMD – (Robotic Mobilization Device)」Enes CanıdemirのYouTubeチャンネル

車いす生活者が屋内でアクセスできる可動域を増やすことで車いすでは入れない場所に入れるようにする物理的な障害の解消をするだけではない。その特徴として際立つのは、人とのコミュニケーションの快適さの追求に力点を置いていることにある。

たとえば、友人の来客などの際に料理を振る舞う場面などを想像するとわかるが、人と人とのコミュニケーションで重要なのは目線の高さだ。お互いグラスを持ち、声を掛け合い乾杯する。相手のグラスに飲み物を注ぐ動作ひとつをとっても、同じ目線の高さでお酌をすることで互いの感情の機微が行き来する。Tek RMDを使用した「立ちポジション」の位置からであれば、目線の位置を同等の高さに保つことができる。

車いすでは大切な人をハグできない

車いす生活者にとって車いすに座った状態で両腕を解放し、完全な直立姿勢をとるのは不可能である。だが、Tek RMDに乗れば、両腕を自由にできる状態をキープして料理や食器洗い、アイロンがけといった日常の家事作業を容易に行うことができるようになる。

むろん、立ち乗り型モビリティーとして開発されたTek RMDは、車いすを代替するものではない。つまり、車いす生活者の快適性に配慮した住宅のバリアフリー化とはまた別の課題を立ち乗り型モビリティーは示唆している。

象徴的なひとつの例として、2015年にネバダ州の地元テレビ局「KOLO8」で紹介された米国初のTek RMDのテスト使用を行ったネバダ州リノ在住の元消防士Bill Winchesterさんの例を見てみよう。(参照:Paraplegic Firefighter Regains Old Life「KOLO8」2015年12月16日付
Winchesterさんは2014年に事故に遭った影響で胸部から下が麻痺してしまい、それ以来、車いす生活を続けていた。妻と3人の小さい子どもがいるWinchesterさんにとって事故で人生が変わってしまうことは受け入れがたいことだった。ところが、それからしばらくたってから、Matia Robotics社は米国で初めてとなるTek RMDのテスト使用者としてWinchesterさんを選んだのである。

Tek RMDを使い始めて、Winchesterさんは人生を取り戻していった。
Winchesterさんが車いす生活でできなかったことの中でもっとも大切なことは、彼の妻と子どもたちをハグすることだった。Tek RMDを使うことで再び妻と子供たちをハグすることができるようになったのである。

ハグすることは健康な体を持った人にとっては当たり前のことかもしれない。しかし、Winchesterさんにとっては特別な行為だった。健常者が当たり前のことと考え、それができない状態を想像すらしないことはたくさんある。そこには、生活の物理的な障害だけでなく大切な人との心の交流も大きな部分を占めている。

自尊心を取り戻すためのモビリティー・プラットフォーム

そもそも、Tek RMDは車いすの代替品を目指すものではなく、歩行障害を持つ人びとのためのまったく新しいモビリティー・プラットフォーム構築として考えられたものだ。
Tek RMDの発明者でMatia Robotics社のCEOを務めるNecati Hacıkadiroğlu氏は、「傷害を患ってしまった人たちが事故前の人生を取り戻すためのデザインを私たちはいつも考えている」とも述べている。(参照:Paraplegic Firefighter Regains Old Life「KOLO8」2015年12月16日付
なお、Tek RMDの現行製品のスペックは、サイズが42cm× 75cm 、重量約80kg、移動時の最高速度が時速4.6kmとなっており、米国食品医薬品局(FDA)の認証のほか、欧州連合(EU)加盟国の安全性基準を満たすCEマークを取得している。
現在は米・英・オーストラリアのディーラーから購入することができる。(Matia Robotics公式サイト)

人が人としての自由と自尊心を取り戻すための新たな移動手段の普及に向けて、さらなる可能性を期待したい。

会社概要

会社名 Matia Robotics
CEO Necati Hacıkadiroğlu
設立年 2006年
拠点 カリフォルニア州ロスアルトス
社員数 11-50規模
事業内容 福祉機器開発
主な商品 Tek RMD
会社URL http://www.matiarobotics.com/
沿革 2006年 創業
2012年 Tek RMDの初号機を開発

メンバー紹介

Necati Hacıkadiroğlu
CEO
トルコのコチ大学でロボット工学の研究を始め、その後10年以上にわたってロボット工学に関連するプロジェクトに携わり、多数の特許も所有している。
(参照://www.matiarobotics.com/about/team

AYÇA HACIKADIROĞLU
CFO
トルコのマルマラ大学卒業後、米国のペパーダイン大学でMBA(経営学修士号)取得。トルコの携帯電話会社大手のTURKCELL社や英国の大手会計事務所Ernst & Youngなどを経て、Matia Robotics社のCFOとなる。
(参照://www.matiarobotics.com/about/team

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SAKIGAKE編集部

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