システムデザインから世界を変える!進化するモデリング言語「OPM」とは何か?―Dov Dori教授に聞くー前編

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本稿では、システムエンジニアリングの中でもモデリング言語の世界で大御所として知られるテクニオン=イスラエル工科大学経営工学部のDov Dori教授を紹介します。

みなさんは「モデリング言語」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか? オブジェクト指向でのソフトウェア開発に携わっている方なら、システムの概念設計の現場でモデリング言語をすでに活用されているかもしれません。しかし、モデリング言語が活用される場面はいまやソフトウェア業界のみに限りません。Dov Dori教授が開発したオブジェクト―プロセス・メソドロジー(Object-Process Methodology=OPM)は近年、あらゆる産業分野での製品開発や製品を取り巻くアーキテクチャーの設計・デザインの現場に幅広く波及し、2015年にはISO規格に採用されるまでに至っています。OPMの創案者であるDov Dori教授にOPMの現在と今後の展望をうかがいました。

―まずはDori教授の経歴を教えてください。

私は、テクニオン=イスラエル工科大学のエンタープライズシステムモデリング研究所の所長を務める傍ら、学外では米国電子電気学会(IEEE)システムズエンジニアリング国際協議会(INCOSE)パターン認識国際連盟(IAPR)のフェロー研究員としても活動しています。2000年以降は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の客員教授も断続的に務めていますが、現在はMITのシステム設計管理プログラム(SDM)の講師をしています。

私がテクニオン=イスラエル工科大学で産業工学の理学士号を取得したのは1975年のことですが、テルアビブ大学ではオペレーションズ・リサーチを専門的に学んで1981年に理学修士号を取得しました。その後、ワイツマン科学研究所に入って1988年にコンピューター・サイエンスの博士号を取得しました。
【原注】「エンタープライズシステムモデリング」
システムエンジニアリングの方法論を用いて事業の工程を概念的にモデル化し、企業活動のパフォーマンスの向上を実現するための技法。
(参考:http://esml.iem.technion.ac.il/?page_id=2

―精力的に研究論文等の執筆もなさっていますね。

私はこれまで学会論文や共著も含めて300を超える出版物を執筆してきました。それに、50人以上の大学院生も指導してきましたし、IEEE サイバネティクス部門のモデルベース・システム・エンジニアリング技術委員会では共同議長を務めているほか、他にも9つの国際会議やワークショップで議長や共同議長を務めました。

現在、私は『システム・エンジニアリング』の編集委員を務めています。以前は『IEEE Transaction on Pattern Analysis and Machine Intelligence』の編集委員でした。また、私はオメガ・アルファ・アソシエーションのメンバーでもありますし、システムエンジニアリングの国際名誉協会、アメリカ計算機学会(Association for Computing Machinery=ACM)のシニアメンバーとしても活動しています。

―現在の主要な研究分野は何でしょうか?

私の研究分野はまず、モデルベース・システムエンジニアリングです。また、複雑系システムの概念モデリングのほか、システムアーキテクチャ・デザインやソフトウェア・システムエンジニアリング、そしてシステム生物学(systems biology)が関心領域です。私が創案、開発したオブジェクト―プロセス・メソドロジー(Object-Process Methodology=OPM)は、2015年にISO 19450として採用されました。

―オブジェクト―プロセス・メソドロジー(OPM)とはひとことで言うと?

OPMは、複雑なシステムの設計にも適用が可能な、概念造形のための「図とテキストを用いた総合的なモデリング言語」のことです。システムを構成する「オブジェクト」とそれらのオブジェクトを「プロセス」が変形するという側面から、どんなシステムでも効果的に記述できるという知見に基づくものです。

―なるほど。詳しく教えてください。

プロセスは(1)新たなオブジェクトの作成(2)既存のオブジェクトの消費(破棄)(3)既存のオブジェクトのステート(状態)の変異という3つの経路を通してオブジェクトを変形します。ということは、システムのモデルを作成するために必要なのはプロセス(または機能)とプロセスによって変形されるオブジェクトを表現することだけだということになりますね。ですから、ステートを持つオブジェクトとプロセス、そしてそれらの間の関連性を使用することで、どんなドメインのレベルの複雑さの中にあるシステムであってもモデル化することができるようになります。
【原注】「オブジェクト」、「プロセス」、「ステート」
★オブジェクト(object)―システムの内部に存在する「もの」や「対象」のこと。物理的に目に見える有形の事物と情報処理上の抽象概念の双方を含む。
★プロセス(process)―オブジェクトを変化させる「経過」や「手続き」のこと。
★ステート(state)―オブジェクトが持つ「状態」のこと。

【補足】 たとえば、「小さな木が成長して大きな木になった」という1文をOPMで表示する例を考えるなら、まず「世界=システム」の内部に「木」というオブジェクトがある。このオブジェクト「木」に「成長させる」という「プロセス」を介在させることで、もともと「小さい」というステート(状態)を持っていたオブジェクト「木」は、「大きい」というステートを持ったオブジェクト「木」に変化することになる。これをOPMでモデル化したのが下図である。


(参考:http://esml.iem.technion.ac.il/wp-content/uploads/2015/02/webinar_020915.pdf

また、プロセスを繰り返しズームアップしていくと、そこに属するサブプロセスとそのサブプロセスが変形するオブジェクトが見えてきますね。そこからディテールの詳細度が異なるレベルで相互に連関するシステムを示す一連の図式として「オブジェクト―プロセス・ダイアグラム」が得られます。

―システムの構造を視覚的に伝えやすくする仕組みですね。

現在我々が開発しているOPMモデリング・ソフトウェア「OPCAT」(OPCATは、エンタープライズシステムモデリング研究所の公式サイトから無償でダウンロードできる:http://esml.iem.technion.ac.il/?page_id=1849)でユーザーがモデルを編集すると簡単な英語の文章に翻訳されます。もうじき英語以外の言語にも対応しますが、その内容を見ればモデルが正しいかどうかいつでも検証できますし、すべての関係者に簡潔に伝えることができます。

Dov Dori教授らが開発するOPMモデリング・ソフトウェア「OPCAT」の画面

OPMモデルは、システムの動作をビジュアルアニメーションで画面上に再現してシステムが期待どおりに動作するかどうかを検証し、その動作をわかりやすく説明するツールです。また、OPMはMITやテクニオン=イスラエル工科大学を含む世界中の主要な大学で教えられていますし、米国の白物家電メーカー大手のワールプールやフランスの航空機大手のエアバスなど、Fortune 500ランキングに選出されている企業でも使用されています。

エンタープライズシステムモデリング研究所のWebサイトにはジャーナルやカンファレンスの論文、プレゼンテーション、「OPCAT」のソフトウェアやマニュアルなど、多くの資料が公開されています。

システムデザインから世界を変える!進化するモデリング言語「OPM」とは何か?―Dov Dori教授に聞く【後編】に続く

プロフィール

Dov Dori教授
テクニオン=イスラエル工科大学
メールアドレス:dori@technion.ac.il

原文

–Could you tell me about your profile briefly?
I am Harry Lebensfeld Chair in Industrial Engineering and Head of the Enterprise System Modeling Laboratory at the Faculty of Industrial Engineering and Management, Technion, Israel Institute of Technology. I am Fellow of IEEE – Institute of Electrical and Electronics Engineers, Fellow of INCOSE – International Council on Systems Engineering, and Fellow of IAPR – International Association for Pattern Recognition.
Since 2000 I have been intermittently Visiting Professor at MIT, where I am currently Lecturer at SDM – Systems Design and Management Program. I received my PhD in Computer Science in 1988 from Weizmann Institute of Science, MSc in Operations Research from Tel Aviv University in 1981, and BSc in Industrial Engineering and Management from Technion in 1975.
I have authored over 300 publications, including journal and conference papers, books, and book chapters. I have mentored over 50 graduate students. I am co-chair of the IEEE SMC TC on Model-Based Systems Engineering and chaired or was co-chair of nine international conferences and workshops.
Among my editorial duties, I was Associate Editor of IEEE Transaction on Pattern Analysis and Machine Intelligence, and currently I am Associate Editor of Systems Engineering. I am Member of Omega Alpha Association – International Honor Society for Systems Engineering, and Senior Member of ACM.

–What are you researching?
My research interests include model-based systems engineering, conceptual modeling of complex systems, systems architecture and design, software and systems engineering, and systems biology. I invented and developed Object-Process Methodology (OPM), which in 2015 was adopted as ISO 19450.

–What is “Object Process Methodology”?
Object-Process Methodology (OPM) is a holistic graphical and textual language for conceptual modeling of systems of all kinds and all levels of complexity. OPM is based on the observation that any system can be effectively described in terms of the objects that comprise it and the processes that transform these objects. Processes transform the objects by (1) creating new objects, (2) consuming existing objects, or (3) change the state of existing objects. Therefore, all it takes to create a model of a system is to express the process (or function) it enables and the objects that are transformed by this process. Hence, using objects with states, processes, and some relations among them, one can model any system in any domain ad at any level of complexity. By iteratively zooming into processes to show their subprocesses and the object they transform, we get a set of Object-Process Diagrams that are interconnected and aware of each other, each showing the system at a different level of detail. Using our freely available OPM modeling software, OPCAT, each graphical editing of the model by the user is translated on the fly to simple sentences in English (and soon in other languages), so one can verify that the model is correct at all times and easily communicate it to all the stakeholders. The OPM model can be simulated by visual animation to verify that the system behaves as expected and to explain how it works. OPM is taught at leading universities across the world, including MIT and Technion, and is used by Fortune 500 companies like Whirlpool and Airbus.
the Enterprise System Modeling Laboratory website contains many useful resources about OPM, including journal and conference papers, presentations, OPCAT software and manuals.

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SAKIGAKE編集部

SAKIGAKE編集部

海外のスタートアップ、テクノロジーに関する最新情報を発信していきます。 海外の起業家たちが、何の課題に目を向け、どんなことを仕掛けようとしているのか。 最新技術だけでなく、未来を創ってきた人や、これから未来を創ろうとしている人の生活・人生もご紹介します。
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