認知症の兆しを言葉の変化で鋭くキャッチ!—WinterLight Labs社

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急増する認知症

超高齢社会に生きる私達の中には、身近に認知症を発症した人がいるという人も多いのではないだろうか。実際、日本では認知症を発症した人の数が急増していて、2012年の時点で462万人おり、2025年には700万人になると見られている。
(参照:内閣府 平成28年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況)

だが、これは日本に限った話ではなく、世界的にも認知症患者の数が増えていて大きな問題となっている。WHOによると、2010年時点で認知症を患う人の数は、3,560万人と推計されており、2030年までに2倍、2050年までには3倍の1億人を超えると見込まれている。驚くことに4秒に1人が、世界のどこかで認知症になっているという計算になる。

認知症は、本人と介護者双方の負担が心身共に大きいこと、また介護などにかかる費用の増加が医療体制を圧迫することなどが問題とされている。
(参照:世界保健機関 “Dementia:a pubric health priority”
“Alzheimer’s Desease International “World Alzheimer Report 2015”

カギとなるのは発症前の診断とケア

認知症には様々なタイプがあるが、その中でも最も症例の多いアルツハイマー型認知症などでは、完治する治療方法がまだ確立していない。ただし、発症の何年も前から認知機能が徐々に低下していくことが分かっている。

認知機能の低下はあるが生活に大きな支障がない状態を軽度認知障害(MCI)と言う。MCIは数年以内に認知症を発症することが多いものの、発症せずに認知機能が正常に戻ることや症状が悪化しないケースもある。そして、MCIの時点で治療を行うことで認知症の発症を遅らせることが出来る可能性があると言われている。

このため早期発見、早期治療が推奨されているが、問題は認知力の低下が目立たずに受診につながらず見逃してしまうケースが多いことだ。また、受診につながった場合でも、また別の問題が出てくる。MCIの診断には、問診の他に心理学的検査や画像検査が行われる。しかし診断が難しい状態のため診断の精度を上げるために心理学的検査を複数行って長時間拘束されたり、画像検査が高額だったり、などと診察のハードルが高い。

言葉に現れる変化で認知症を発見するソフト

そのような背景の中、カナダ・トロント大学の研究者達が立ち上げたWinterLight Labs社は、人工知能を使って認知症を発見するソフトを開発した。

認知症と言えば、 一般的に記憶障害が良く知られているが、実際には様々な認知機能に影響が出る。言語機能の低下もその一つだ。これまでの研究の結果、認知症になると使われる文法や語彙が簡単になる傾向があることが判明した。そこで、同社では、その言語機能の低下に着目し、言語に現れるわずかな変化をキャッチするソフトを作った。同社によれば、言葉の面に現れる変化は、発症する十年以上前から現れるのだそうだ。そのため認知症の診断検査としてだけでなく、早期発見や進行度を診る検査にも使えるという。

このソフトを使った検査では、表示される画像に対して、1〜5分程言葉で描写、録音する。音声認識機能により、録音された言葉がテキスト化され、録音された音声と文字の両方を多角的に分析し、わずか5分後には8割以上の精度で認知症を判断できるという。分析される項目は文法的な構造、使われた語彙、ピッチやトーン、リズムなどで、およそ400項目に渡る。

この方法なら、これまで行われて来た検査よりも早く正確に行うことが可能で、医療費の削減にもなる。その上、一般的に行われている神経心理学的検査では、患者が慣れて検査成績が良くなるということを防ぐ為に半年に一度の割合でしかできないが、同社のアプリなら、画像を変えることで患者の慣れを防げるというメリットもある。ちなみにアルツハイマー型認知症に対して、これまでに83%の精度で識別することが出来たそうだ。

アメリカ、カナダ共に医療機器としての承認はこれからだが、承認されればホームドクターや言語聴覚士が使えるようになる。また将来的には、認知症だけでなく失語症やうつ、自閉症などにも使えるようにすることを目指しているそうだ。
(参照:nanalyze “Artificial Intelligence For Early Alzheimer’s Detection”
University of Toronto “Can natural language processing help detect dementia? This U of T grad student is trying to find out” )

一般的に行われている神経心理学的検査の中には自分の名前やその日の日付を聞かれる問題が入っているが、それに答えるよりは画像描写をする方が自尊心が傷つかないように思う。また、10分程で検査結果まで出るのなら、検査を受けてみようと思う人も増えるかもしれない。それは、MCIの段階で適切なケアを受けられる人が増え、認知症を発症せずに人生を全うする事ができる人が増えるということにもつながっていくのではないか。ITを駆使したWinterLight Labs社の検査方法に期待したい。

会社概要

 

会社名 WinterLight Labs
CEO Liam Kaufman
設立年 2015年
拠点 カナダ
社員数 2-10人規模
事業内容 認知症の検査用ソフトウェアの研究開発
会社URL http://www.winterlightlabs.com/
沿革 2015年 創業
2016年5月 Aging2.0トロント支部主催のピッチイベントで優勝
2016年年7月 AgeWell主催のピッチコンテスト Technology to Support People with Dementia で優勝
2017年1月 Novatio Venturesからシードファンド50万ドルの第1回トランシュを完了。
参照 Planet Longevity “Aging2.0 Global Start Up Search-Toronto Winner!”
Agewell newsletter issue No.2
Agewell Canadian Technology that Uses Speech to Track Alzheimer’s Captures First Prize at AGE-WELL Pitch Competition
WinterLight Labs “WinterLight Labs secures seed funding to commercialize speech-based detection of cognitive impairments”

メンバー紹介

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Frank Rudzicz
取締役 共同創業者
発音障害を持つ人たちのためのスピーチテクノロジーの専門家。Toronto Rehabilitation Instituteの研究員であり、トロント大学コンピューターサイエンス学部の准教授としての肩書きも持つ。

 

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Liam Kaufman
CEO 共同創業者
認知神経学、人間とコンピュータの相互作用、神経科学の分野で、論文を発表してきた。ソフトウェア開発者。
EventMobiにより買収されたスタートアップUnderstooditを起業した経歴を持つ。

katiefraser_winterlight

Katie Fraser
共同創業者
認知症の自動診断、脳卒中の後遺症の研究に関する多くの論文を発表してきた。

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Maria Yancheva
共同創業者
長期的なデータを基に認知症の自動診断に関する研究を行い、NSERCの奨学金を獲得した。 ソフトウェア開発者。

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SAKIGAKE編集部

SAKIGAKE編集部

海外のスタートアップ、テクノロジーに関する最新情報を発信していきます。 海外の起業家たちが、何の課題に目を向け、どんなことを仕掛けようとしているのか。 最新技術だけでなく、未来を創ってきた人や、これから未来を創ろうとしている人の生活・人生もご紹介します。
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