自宅にいながら出勤・通学!「歩き回る分身」が変える世界-Double Robotics

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米国を中心にテレプレゼンスロボットの存在感が増している。病気などの理由で学校や職場に行くことができないとき、テレプレゼンスロボットを自分自身の「分身」として派遣すればいい。自宅にいながらその場にいるかのように人びととコミュニケーションをとることができる。2012年の創業以来、独自に開発したテレプレゼンスロボットシステム「Double(ダブル)」を普及させ、米国を中心に多数の導入実績を持つパイオニア企業がDouble Robotics社だ。

ユーザーの分身を作り出すテレプレゼンスロボット

そもそもテレプレゼンス(telepresence)とはなにか? 直訳すれば「遠隔存在」だが、遠隔地にいる自分があたかもその場に存在しているかのように現場の様子を見聞きし、そこにいる人びとと対話を行うことを可能にするヴァーチャルリアリティー技術のことを言う。

一言で言うならユーザー自身の身体と人格を含めた総合的な「分身」を仮想的に作り出す技術である。「分身」といえば、世界の民間伝承や都市伝説として伝わる幽体離脱した自分自身の分身にばったり出会ってしまう怪奇現象のことをドイツ語で「ドッペルゲンガー(Doppelgänger)」と言うが、Doppelgängerはドイツ語の原義としては「二重(Doppel)」の「歩行者(gänger)」を意味する。すなわち「歩き回る分身」のことである。

また、英語では「分身」のことを「double」と言う。Double Robotics社のテレプレゼンスロボットの製品名「double」はずばり「分身」、社名のDouble Roboticsは「分身ロボット工学」と訳しても良さそうだ。

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ロボットの「顔」に相当する画面の部分にはApple社の「iPad」を取り付ける仕様となっている
(出典:Double Robotics社公式サイト

こうした「歩き回る分身」を物理的なロボットを媒介として実現するには、まず最小限の構成として、(1)遠隔地にいる自分の顔と現場の映像をインターネット経由でリアルタイムに映し出すカメラとディスプレイ(2)対話のための音声を伝えるマイクとスピーカー(3)それを人の目の高さの位置に合わせて固定するポール(4)それらを支えてそこかしこを移動するためのタイヤが必要だ。

「Double」の構成ではまず映像と音声の通信・再現デバイスとしてApple社のiPadを採用し、iPadをタイヤが付いたポールに取り付けることでテレプレゼンスロボットの最小限の構成をクリアしている。そして、遠隔地からのロボットの操作は「ドライバー・アプリ」(AppStoreWEB)を通じて行うしくみだ。

人と人との間にあるもの

Doubleはすでに北米を中心にオフィスや教育機関での導入実績が多数あり、代表的な活用事例はDouble Robotics社の公式サイトで映像レポートが公開されている。(参照:「Customer Stories」

日本でも2014年10月に著名ファッションブランドのトミーヒルフィガー表参道店が「バーチャル来店キャンペーン」と銘打ったキャンペーンを展開し、Doubleを採用した事例がある。(参照:「トミー ヒルフィガー テレプレゼンスロボット」(カケザンYouTubeチャンネル)

だが、そうしたビジネス向けの用途よりむしろ今注目しておきたいのは教育現場での活用事例だ。たとえば、物理的実体を伴わないリアルタイムの遠隔コミュニケーションであれば、よくあるテレビ会議のような形態やスマホを用いたビデオチャットなどでも可能だ。ただ、テレプレゼンスロボットが必要とされる場面では、人と人との関係性の間に物理的実体(としてのロボット)を媒介させることに特別な意味があるように考えられるのである。

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教育現場の活用事例ではロボットに服を着せる例がみられる(メリーランド州アナランデル郡)
(出典:Double Robotics社公式YouTubeチャンネル

上の写真は米メリーランド州アナランデル郡の公立学校の教室でのDoubleの利用風景だが、ある男子生徒が病気療養のため自宅からDoubleを遠隔操作し、バーチャルに学校に登校している。Doubleを経由して校内を歩き回り授業にも参加し、友だちや先生とリアルタイムで対話をしている。

だが、それだけでは彼の分身であるロボットを取り巻く教室の友だちにとっては「何か」が足りなかったようなのである。ここで改めて上の写真をよく見てみよう。Doubleの「顔」に相当するiPadを支えるポールの部分に、ブルーのTシャツが着せられていることに注目してほしい。

ここにテレプレゼンスロボットの本質が現れているように思えるのである。このブルーのTシャツは学校の同じクラスの友だちが彼の記憶をよりリアルに感じ続けるために本人が実際に着ていたものを学校に送ってもらってDoubleに着せたのだろうと想像される。

ある時、ふと誰かが思い至ったのである。このロボットには「彼らしさが足りない」と――。そこで、彼が普段から好んでよく着ていたのであろうブルーのTシャツを彼のことを思いながらDoubleに着せたのである。取るに足らない些細な話のようだが、このことの意味は重要だ。

具体的な物に宿った記憶こそが人と人との「共感」を支え続ける最後の砦であり、人と人との関係性の記憶は物にこそ宿るからである。このことは、原始的な宗教祭祀や古代ギリシャの劇場の発祥から現代に至るまで「人が一カ所に集う」ことが人間社会の根底を支えてきたことの意味や、あるいは人間にとっての「リアル」とロボットが提示できる「リアリティー」の違いについての根源的な問いをはらんでいると言っても良いだろう。

Doubleは日本での導入事例はまだ少ないようだが、外国製3Dプリンターなどの販売を手がけるBRULÉ Japan社(東京都千代田区)からDoubleの2代目モデルである「Double2」が購入できる。価格は37万9800円(本体のみ)~47万9800円(カメラキットなどを含めたフルオプション込み)となっている。(参照:BRULÉ Japan

日本でもDoubleの活用事例が増えることを期待したい。

会社概要

会社名 Double Robotics
CEO David Cann
創業 2012年
拠点 米カリフォルニア州
社員数 11-50人規模
事業内容 テレプレゼンスロボットシステムの開発・販売
主な商品 CDRメカニズムをベースとする統合セキュリティーソリューション
会社URL http://doublerobotics.com
沿革 2011年 David Cann氏がDoubleのプロトタイプとなるテレプレゼンスロボットを制作、Apple社の開発者イベント「WWDC」に出展
2012年 創業
2012年9月 Y Combinatorなどから190万ドルの資金調達
(参照:crunchbase

メンバー紹介

David Cann
共同創業者・CEO
2003年、米カリフォルニア州コグスウェル工科カレッジ卒。BattleBots社で対戦ロボットゲームのトーナメント管理システムのプログラム開発を手がけたほか、2008年に自ら創業したスマホゲーム開発のTaptic Toys社ではDoubleのプロトタイプとなるテレプレゼンスロボットを制作、2011年にApple社の開発者イベント「WWDC」に出展した。(参照:2011年6月6日付PCWorld「iPad Telepresence Robot Waits in Line at WWDC」2012年にDouble Robotics社を創業、CEOとなる。(参考:LinkedIn

 

Marc DeVidts
共同創業者・CEO
ニューオーリンズ大学でコンピューター・サイエンスを学び、Onboard Media社Syntheon社でソフトウェアエンジニアを務めた後、2012年にDouble Robotics社を創業、CTOとなる。(参考:LinkedIn

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SAKIGAKE編集部

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