ラスト1マイルの空輸革命!ドローンで救急医療物資届ける-Matternet

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現在、交通インフラが未発達で道路事情が劣悪な国や地域に住む人びとは世界で約10億人に上る。世界人口の7分の1の人びとが季節によって物流網から隔絶され、医薬品など緊急医療物資や食糧のほか望みの生活必需品を安定的に得られない環境に置かれているのだ。

この10年で飛躍的な発展を遂げた携帯電話網による「情報通信」と同じように「物資輸送」のネットワークを最新テクノロジーを使って形成できないか?――。自律型無人航空機を活用した空輸ネットワーク構築を軸に医療活動の「ラスト1マイル」へ向け物質を空輸する先駆けとなるのがMatternet社だ。

医療活動向け物資輸送に照準

「現在、地球上の10億人の人びとが年間を通して利用できる道路がない地域に住んでいます」。2013年、Matternet社CEOのアンドレス・ラプトポウラス氏はTEDカンファレンスでの講演で静かにこう語り始めた。(参照:「Andreas Raptopoulos: No roads? There’s a drone for that」(TED Talk)

例えばアフリカ大陸のサハラ以南では、雨期には85%の道路が利用不可能となる。建設投資は進められているが建設が追いつくまでにはこの先50年はかかるとされる。この現実を乗り越えるにはドローンを活用した空輸ネットワークの構築が有効だとラプトポウラス氏は提言する。

ドローンによる小型荷物の空輸といえば、Amazon.com社の「Prime Air」や、2016年末に米ネバダ州でセブンイレブンの米国法人が運営する店舗の商品配送を実現させたFlirtey社(公式サイト:http://flirtey.com/ )などがしばしば話題にのぼるが(参照:「PrWire」2016年12月20日「Flirtey and 7-Eleven Complete First Month of Routine Commercial Drone Deliveries, Deliver 77 Packages to Customer Homes in United States」)、Matternet社が照準を絞るのは、特にアジアやアフリカの新興国・地域での医療活動向け物資輸送だ。

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アフリカのマラウイ共和国ではHIV検査のための血液サンプル輸送の実験が行われた
(出典:UNICEF(国連児童基金)公式サイト

2014年夏、Matternet社のドローンが飛んでいたのはヒマラヤ山脈の南の麓に位置するブータンの空だった。国土の多くを山岳地帯が占めるブータンでは住民が病気に罹ったときの病院での受診がきわめて困難だ。世界保健機関が算出する世界各国・地域の「人口1000人あたりの医師数密度」の統計によると、ブータンは0.259人で、近隣のインド(同0.702人)やバングラデシュ(同0.356人)よりも少なく(参照:World Health Organization Health Workfore、遠隔医療の高度化が喫緊の課題となっていた。そうしたなか、Matternet社は世界保健機関との共同事業として、ブータンの中央病院から遠隔地の保健所へドローンで医薬品を運ぶ実証実験を行っていたのだ。(参照:WHO「Feasibility study for deploying Drones in Bhutan for delivering medical supplies」

また同年11月、国境なき医師団との共同事業では、パプアニューギニアで住民の結核検査のための喀痰をドローンで検査所まで輸送する実証実験が行われた。(参照:国境なき医師団「Innovating to Fight Tuberculosis in Papua New Guinea」

さらに、2016年3月にはアフリカのマラウイ共和国とUNICEF(国連児童基金)による共同事業として行われたHIV(ヒト免疫不全ウイルス)検査のための血液サンプル輸送をドローンで行う実験にMatternet社が協力している。(参照:UNICEF:Malawi tests first unmanned aerial vehicle flights for HIV early infant diagnosisこのように医療・人道目的のドローン利用に真っ先に取り組む姿勢こそがMatternet社の企業哲学の中心となる大きな柱だ。

メルセデス・ベンツ・バンズとの協業で「空」と「陸」を融合

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この小型ドローンで、約2キログラムの荷物を10キロメートル運ぶことができる
(出典:Matternet社公式サイト

Matternet社が構築している自律型ドローン空輸システムは、(1)Vehicle=無人飛行機(2)Cloud=運航状況をモニタリングし飛行データを分析するクラウド型システム(3)App=目的地を指示するスマホアプリの3層で構成されるが、将来は(1)Vehicleに「自動車」が付け加えられることになる。

2016年9月、Matternet社とドイツ自動車大手ダイムラー社のバン部門であるメルセデス・ベンツ・バンズ社と協業を発表したからだ。メルセデス・ベンツ・バンズ社はMatternet社の技術協力のもと「Vision Van」と呼ぶ新型EVコンセプト車を開発した。

Vision Vanは、Matternet社のドローンが離着陸できるパッドを2つ装備する。このバンとドローンと組み合わせることで、重量の軽い荷物はドローンで輸送したり、ドローンで運べない重量の重い荷物はバンに乗り込んだ乗務員が運ぶといった形式での「空陸分業」が可能になる。(参照:2016年9月7日付MIT Technology Review「Drones Get Set to Piggyback on Delivery Vans」

Mercedes-Benz Vision Van
メルセデスベンツバンズが開発した新型EVコンセプト車「Vision Van」
(出典:Matternet社公式サイト

Matternet社のドローン空輸システムとメルセデスベンツのバンを一体化させ、「空」と「陸」を融合する統合物流ソリューションは、未来の物流システムの地平をひらく大きな可能性を秘める。新たな展開を模索するMatternet社のこれからの動向に注目したい。

会社概要

会社名 Matternet
CEO Andreas Raptopoulos
創業 2011年
拠点 米カリフォルニア州メンローパーク
社員数 11-50人規模
事業内容 自律型ドローンによる空輸システムの開発・運用
会社URL https://mttr.net
沿革 2011年 創業
2013年11月 アンドリーセン・ホロウィッツから350万ドルの資金を調達
2014年7月 WHO(世界保健機関)と共同でブータンでの医療用物資輸送実験を実施
2014年11月 国境なき医師団と共同でパプアニューギニアでの結核検査向け喀痰輸送実験を実施
2016年3月 UNICEF(国連児童基金)と共同でマラウイでのHIV検査向け血液サンプル輸送実験を実施
2016年8月 ダイムラー社から948万ドルの資金を調達
2016年9月 メルセデス・ベンツ・バンズ社との協業を発表

メンバー紹介

Andreas Raptopoulos

Andreas Raptopoulos
共同創業者・CEO
1997年、ギリシャのパトラス大学で航空・機械工学修士修了。1999年から2001年まで英ロンドンの美術学校ロイヤル・カレッジ・オブ・アートに在学。雑音や騒音を制御された音響環境に取り込む「サウンドカーテン」を制作し、米国の家具製作大手ハーマンミラー社にライセンス供与する。2006年、「適応的音響アーキテクチャー」と呼ぶ音響技術を開発し、Future Acoustic社を創業。その後、2011年夏のシンギュラリティー・ユニバーシティー参加中に「Matternet project」を始動し、2011年12月にMattternet社を創業、CEOとなる。(参考:LinkedIn

Paola Santana

Paola Santana
共同創業者・Network Operations
2009年、ドミニカ共和国のPUCMM大学(Pontificia Universidad Católica Madre y Maestra)法学部卒。2010年からフルブライト奨学生として米ジョージ・ワシントン大学で国際公共調達を研究の後、OECD(経済協力開発機構)や世界銀行で外部法務コンサルタントを務める。2011年12月、Mattternet社を創業。米連邦航空局(FAA)のドローン諮問委員会の委員も務める。
(参考:LinkedIn

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SAKIGAKE編集部

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