ウィルスで細菌を狙い撃ち!?食品検査に新技術-Sample6

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O157やサルモネラなど食中毒発生のニュースは後を絶たないが、食品会社も飲食店も厳しく管理された衛生マニュアルのもとで私たちに食を提供している。消毒・滅菌技術が進んでも感染してしまうのは微生物が想像を超える生命力を持つからだろうか?

Sample6は独自の分子生物技術を未来の食品品質検査へ転換した、食品安全イノベーターである。

微生物を死滅させるウィルスとは?

微生物はバイオフィルムという菌膜で覆われ、外界からの刺激や変化を受け難くするシステムを持つ。台所や浴槽などでみられるヌメリもこの1種である。

バイオフィルム内では嫌気性菌から好気性菌、従属栄養から独立栄養のものまで様々な種類の微生物が存在し、その中で様々な情報伝達を行いながらコミュニティを形成していると考えられている。コミュニティ内で微生物は増殖し、やがてバイオフィルム外へと放出され、人間に様々な症状を引き起こすのだ。(出典:wikipedia)

このような微生物の増殖を抑え、あるいは減少させることができる抗生物質の発見は革命的な出来事であった。一方で抗生物質に順応し、耐性をもつものが現れ始めた。

MRSA(=メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などは、一旦発症するとほとんどの抗生物質が効かないため治療は困難である。このような薬剤耐性菌に対して近年研究が進められているのがバクテリオファージという、特定の微生物に感染して死滅させるウィルスの開発だ。

バクテリオファージでの成功

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バクテリオファージのイメージ画像
(出典:Pixabay

Dr. James Collins’ 研究室に所属していたTimothy Lu氏, Michael Koeris氏 ,Tanguy Chau氏らが2009年3月、抗生物質耐性感染症に対処する遺伝子操作されたバクテリオファージを作成するための会社、Novophage Therapeutics, Inc.を創設した。(出典:※ボストン大学VDC

このバクテリオファージはバイオフィルム中の微生物細胞と細胞外高分子物質で構成されているマトリックスを攻撃する。すなわち、感染の間にバイオフィルム分解酵素を発現するように開発されたバクテリオファージであるということだ。

これはバイオフィルムを除去できない従来のバクテリオファージよりも治療の効果が顕著に表れることが明らかとなっている。(出典:MIT BE)

この技術を持って、同社はパデュー大学のライフサイエンスビジネスプランコンペで優勝し、世界最大のスタートアップコンテストMassChallengeでファイナリストとなっている。(出典:ボストン大学VDC)

医療から食品へ Sample6への転換


【動画】Professor Timothy Luによる技術説明
(出典:Sample6ホームページ

 

コンペティションに参加しながら、彼らは技術をさらにブラッシュアップし様々なアプリケーションを開発・研究していく。その中の1つが合成生物学を用いたバクテリオファージに基づく微生物診断である。

バクテリオファージを遺伝子操作する際に、感染した病原体が発光するように形質転換を与え、少ない病原体数での検出を可能にしたのだ。

”「the Bioillumination Platform™(=Sample6が開発したバクテリオファージ) がサンプルに供給されるとき、私たちは病原体を光に転換した。私たちの最初の実験で、培養で増やすことなく、たった6つの細胞を検出することができた。私たちはすぐに単一細胞の検出を達成したが、6という数字は私たちにとってのラッキーナンバーとして残されたのだ。」”

と彼らは話している。Sample6の誕生である。(出典:Sample6ホームページ)

この技術をどこで使用するか。彼らは医療とは離れた食品分野に焦点をあてていた。

食品会社の微生物検査は伝統的な手法が多く、24時間から48時間、長ければそれ以上の菌増殖のためのインキュベートを要する。(参照:日本薬局方・微生物限度試験法 ・微生物限度試験法の実際)

これは微生物の繁殖能の強さや検査する菌種多さにもよるのだが、彼らの技術を用いれば繁殖前の数個の菌の存在も明らかになる。また、バイオファージの特異性により様々な菌種の選択も可能となる。多くのラインを抱える食品工場では、検査のために出荷を待つことも回収するリスクも少なくなるはずだ。

微生物検出システムを拡大するために

現在、Sample6はリステリア菌検出のためのプラットフォームを提供している。リステリア菌による食中毒は発生率こそ低いものの、CDC(=アメリカ疾病予防管理センター)が1600人発症者のうち260人が死に至ると推定している死亡率の高い病原菌だ。

実際に2011年、アメリカのある農場から出荷されたマスクメロンによって、147人の感染者のうち33人の死亡が確認されている。(出典:CDCホームページ)

2016年7月、Sample6はFDA(=アメリカ食品医薬品局)や他の施設とともに、このリステリア検出システムを大規模に検証することを発表した。(出典:Sample6ブログ)

このシステムの成功のあかつきには、サルモネラやスタフィロコッカスなど他の食中毒菌検出システムへの拡大が容易になることは間違いない。

微生物はどこにでも存在する。Sample6の技術は食品会社だけでなく、医療機器メーカーや医薬品製造など、品質検査を要する様々な分野で必要とされるであろう。Sample6は微生物から私たちを守るため新たな検査手法を提案する、画期的な技術を持つ企業なのだ。

会社概要

会社名 Sample6
CEO Michael Koeris, Ph.D.
創業 2009年
拠点 アメリカ マサチューセッツ州 ケンブリッジ
社員数 11-50人規模
事業内容 リステリア菌検出のためのバイオファージによる検出技術の確立および食品安全管理システムの提供
主な商品 Sample6 DETECT, Sample6 CONTROL
会社URL http://sample6.com
沿革 2009年3月 ボストン大学(当時)のDr. James Collins’ 研究室で Timothy Lu, Michael Koeris ,Tanguy Chauらが、Novophage Therapeutics,Inc.の名のもと最初に創設した。数々のビジネスプランコンペを通じて、バクテリオファージを細菌感染の治療法として使用することを含む、この技術のさまざまなアプリケーションを共同開発し、現在のSample6へと成長を遂げた。
2011年5月 シリーズAとして575万ドルの資金を調達。
2013年10月 シリーズBとしてCanaan Partnersおよび他2社から650万ドル調達。
2014年11月 Timothy Lu氏から250万ドルを追加調達。
2016年8月 シリーズCとしてAcre Venture Partnersおよび他3社から1270万ドル調達。

メンバー紹介

Michael Koeris, Ph.D.

Michael Koeris, Ph.D.
最高経営責任者(CEO)、共同創設者
2016年8月 CEOに就任
2016年1月-7月 研究開発担当副社長
2013年3月-2015年12月 経営開発担当副社長
2011年7月-2013年3月 COO
2008年11月-2011年6月 CEO

ベルリンのフリー大学およびMITで生化学、生物物理学を専攻し、ボストン大学で生医学工学の博士号を取得。(参照:Linkedinサイト)

Professor Jim Collins, Ph.D.

Professor Jim Collins, Ph.D.
役職 会長、科学諮問委員会メンバー、共同創設者
MITの医科学、生物工学の教授。医学および科学分野において数多くの賞を受賞。彼の発明や技術は多くのスタートアップ企業に関わっており、バイオテクノロジー・医療機器企業にライセンス供与されている。1987年、ホーリークロスから卒業生総代として物理学の学位を、1990年にローズ奨学生だったオックスフォード大学から医療工学の博士号を取得した。(参照:Wikipediaサイト)

Professor Timothy Lu

Professor Timothy Lu
取締役、共同創設者
MITのAssociate Professor。United States Presidential Early Career Award for Scientists and Engineersを受賞した優秀な科学者である。2008年-2010年 ハーバード大学で薬学の博士号を、1997年-2007年 MITで電気工学、コンピューター科学の修士、電気工学、生物医学の博士号を取得。

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SAKIGAKE編集部

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